紙の月
監督:吉田大八/2014年/日本/126分
劇場公開日:2014年11月15日劇場公開(PG12) 公式サイト
鑑賞日:2014年10月25日 【第27回東京国際映画祭】TOHOシネマズ六本木 スクリーン7 にて
映画川柳
止まらない 許されないと わかっても
予告編
ざっくり、あらすじ
ちょっとだけ、借りるつもりでした。
銀行員として働く梅澤梨花が大学生の光太と出会い、
不倫をし、横領という犯罪に手を染めていく作品。
感想、思ったこと
■何がきっかけになるかわからない。
いやー面白かったです!銀行での横領ってこうやってやるんですね。
銀行員として働いていて、夫婦生活もまぁ円満で、特に不満のなさそうな真面目に生きている主人公が犯罪に手を染めていく様をまざまざと見せつけられる訳ですが、地味ですよ。でも、人の中にある汚さのようなものが滲み出てくる感じがたまらんのです。この辺りを傑作『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督がじわりじわりと描いてくれています。ストーリーは横領してバレるの?バレないの?なハラハラさせられるものなんですが、予告編でバレるのがバレてますね(笑) バレて彼女がどうするのかってところまでちゃんとあるので安心してください。クライマックスは結構刺さりました。
この映画で自分が考えたことは「与えること」と「与えられること」について。愛するのと愛されるのどっちがいい?に似てるんですけど、そういうことです。主人公は「与えること」で喜びを感じられるタイプの人間で、「与えられること」が気に食わなくても我慢できちゃうんですよね。でも、そんな我慢はいつの日か爆発する訳です。そんな爆発を見る映画でしたね。真面目で大人しい人ほどちょっとしたことで爆発するってのは知ってます。
そんな主人公は夫にプレゼントをしたり、顧客にいい提案をしたり、大学生と不倫をする中で色々とプレゼントしたり、といくつも「与えること」をしていきます。だって、それが喜びだから。それに対して自分に見返りがなくてもいいんですよ。裏切られてもいいんです。だけど、それで彼女の中の何かが変わってしまったのも間違いないよな、と。夫婦のやり取りのモヤモヤ感からはじまっていくんですよね。怖い怖い。
そして、与えたいがために、横領を1万円、100万円……と重ねていってしまう様がなんとも。中学生時代のエピソードと共にそんなことが語られていくので、誰の中にでもあるような汚さを考えさせられました。あんな罪悪感は感じたことがあるようなないような。
ラストは彼女の「与えること」が唯一報われたようにも思え、決してハッピーな状況ではないですけど、救いがあってよかったです。
■役者陣の演技は必見。
主演の宮沢りえは映画主演7年ぶりということで注目されてますが、不倫相手の大学生役、池松くん、同僚役の大島優子や小林聡美などなど脇を固めている方々にも注目です。
宮沢りえの表情ひとつひとつが活きていて、上手いんですよ。これ。加えて、池松壮亮との濡れ場はいけないことをしている感が半端じゃなく、結構やばいです。大島優子の演技もかなりハマっていて若手銀行員で宮沢りえの心を上手いこと引っ掻き回す好演をしてました。そして、誰よりも存在感を放っていたのが小林聡美。表情を変えずに主人公を追い詰めていく姿が怖い、怖い。宮沢りえの上司的な立場にある彼女の役どころは原作小説にはないキャラクターなのですが、これがまた映画を引き締めるいい役なんです。原作未読なのですが、これは原作とは違っていても成功パターンなのではないかなと思いました。今度読んでみようかな。
クライマックスは宮沢りえと小林聡美の対峙なんですが、ぞわぞわしました。どちらが言ってることもわからなくないので、なんだかグサグサと刺さってきてしまうという。ああ。
全体的に90年代顏というか、いい感じに幸薄そうでよかったです、ほんと。
近藤芳正のカツラキャラも相当いやらしかったです(笑)
■音楽と映像の異物感。
この映画音楽がほとんど流れないにも関わらず、印象的に残るんです。流れないからこそ流れた時にその印象が強くなる、と。
主人公の感情の昂りに合わせて流れるので、わかりやすい演出ではあるんですけど、なんだか現代的な曲なんですよね。独特な響きを持ったエレクトロサウンドが異質でした。合っていない訳ではなくて、いい意味で空気を変える役割をしていて面白いなと思いました。不倫中はポップな感じになりますし、横領中は心のざわつきを煽っていました。
音楽ではないですが、音も印象的でした。お札を数えて弾く音とかドキッとしました。
そして、映像もなんだか全体的にトーンが暗く、もっさりしている印象を受けました。これは吉田監督らしさなのかなとも思いますけどね。スローモーションが多用されているんですけど、それがこちらを煽りつつ嘘くさい世界観を作り出していました。
そんな音楽と映像の異物感がタイトルである『紙の月』を意識しているのかなと感じました。好みの空気感でした。素敵。
タイトルの意味も考えるとやっぱり何だか物悲しい。幸せは一瞬かもしれないけれど、その一瞬がたまらないんでしょうね。自分を解き放てる一瞬が。
じわりじわりと汚いところを見せられて、ぞわぞわさせられる、そんな作品です。好きです。
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