[映画の感想]『ダークナイト』シリーズ、『インセプション』、『インターステラー』と映画を撮ればどれも傑作みたいな監督、クリストファー・ノーランの最新作。過去最高傑作と言ってもいいほどの圧倒的な映像に打ちのめされた。大阪エキスポIMAXでの話。
ダンケルク
Dunkirk/監督:クリストファー・ノーラン/2017年/アメリカ/106分
劇場公開日:2017年09月09日劇場公開
映画川柳
どこまでも 生き抜くことに しがみつく
ざっくり、あらすじ
ダンケルクから生き抜け
第2次世界大戦中の港町ダンケルク。イギリス軍とフランス軍はドイツに追い詰められた40万の兵士を救出するありのままを描いた作品。
感想、思ったこと
クリストファー・ノーラン監督最新作にして、最高傑作と言っても言いようなとんでもない作品。ノーラン作品となると何を言ってもネタバレが嫌な人は必ずいると思いますが、すべてオープンに書きます。まだ観てない、何も知りたくない人はまず映画館へって感じ。何も知らずに観た方がいいもんね、映画って。
■どうして、大阪のIMAXまで観に行かないのか。
ここで言う大阪のIMAXっていうのは、大阪万博公園のそばにある、商業施設エキスポシティにあるIMAXのこと。(以下、エキスポIMAX)
現在、日本にあるIMAXスクリーンで唯一の4Kレーザー上映ができる。高さが18m、幅が26mとサイズ自体も最大級。
結論だけ言うと、エキスポIMAXまで観に行く価値あり。間違いなく。没入感と監督が見せたかったものは、日本だとここにしかないのだから。通常のスクリーンであれば上下がカットされてしまうが、エキスポならほぼ正方形の画面いっぱいに広がるフィルム撮影された映像。
わがままなことを言えば、これフィルムで上映してくれていたらと思う。質感はやっぱりフィルム上映に敵わないよね。4Kレーザーもすこぶる綺麗なのだけど。こだわりが強すぎるノーラン監督はいつもどおりフィルム撮影をしていて、IMAXの70mmフィルムと60mmのフィルム撮影を全編にわたってしているとのこと。だから、フィルム上映も気になってしまうわけ。
このご時世にデジタル嫌いというのがホントいい。この辺は『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』って映画で結構語ってて、色んな考え方が映画監督ごとにあって面白い。結構、観て欲しい。
デジタル撮影だけじゃなくて、CGも嫌いなノーラン監督。『ダンケルク』においてもVFXはおそらくほぼ使われていなくて、本物の戦闘機を飛ばして、本物の戦艦を海に浮かべて、本物の人をたくさん用意して撮影しているはず。『インターステラー』の撮影のためにとうもろこし畑作る人だからね、バカかよ。
そういった、本物の質感がたっぷり堪能できるのが、エキスポIMAXと思う。監督のファンなら誰しも、「監督が意図した形で映画が観たい」と思うかなと。
本来映っているはずのものが、上下なくなってるってことはそれだけその作品の世界が削られているということ。監督が観て欲しくて撮ったものはそりゃ根こそぎ観たい。そうなったら、どうして、大阪のIMAXで観ないの?って自然となってしまう。
公開初日合わせて、飛行機予約して、映画の座席予約も深夜にサイト張り付きながらして、そうやって行く映画館って何か格別。もはや自己満だけど、こうやって趣味に没頭してる時が一番幸せ。
全然関係ない話ですが、大阪に行く飛行機がプロペラ機で、何か戦場に赴く感強めてくれました。はい。
そうして、エキスポIMAXで2回連続『ダンケルク』を決めてきたのですが、これがもう自殺行為。1回目観て、呼吸や鼓動をコントロールされてる感覚に陥り、疲労。2回目はいくらか楽になったものの、疲労。ホテルでぐっすりコース。
エキスポIMAXの魅力は画面いっぱいに広がる映像なのだけど、もちろん上下カットされるシーンがある。これはこれでグッと人物に、物に、出来事にフォーカスされるから迫りくるものがあった。というか、そこらへんのシネコンのスクリーンよりでかいから、もうよくわからないレベルなんだけどね。
その圧倒的な映像が映画上映後、すぐにその世界に引き込んでくれる。こんな没入感は他では味わえない。あるとすれば、シドニーのIMAXとか海外の桁違いのスクリーン。だから、日本だったら大阪エキスポシティのIMAX一択。ノーランの映画を観るなら、そこしかない。
■内容はただただ生き抜く姿を描いているだけ
スクリーンの話でだいぶ書いてしまったけれど、内容にも触れたい。
第二次世界大戦時の「ダンケルクの戦い」という実話をベースにしている。世界史選択しててもサラッとしか触れられない気がするけど、歴史的にも重要な戦いらしい。連合軍が作戦失敗して、かなりやばい状況に陥ってしまう。市民を巻き込んだそこからの劇的な救出ということで、色々大事らしい。詳しくは得意な人におまかせします。
映画としては、序章とか本編をふっ飛ばして、クライマックスみたいな感じ。イギリスとフランスがドイツに敗れ、ダンケルクという港町に追い詰められて行き場なくして、故国に帰ろうとする話なんだけど、帰ろうとしてるところからスタート。普通の戦争映画だったら、どうしてこうなったのかを説明してくれるはず。そこをガン無視。
逃げようとする連合軍に対して、ドイツもそんな生ぬるくなく、海に出れば戦闘機で船を沈めにくるし、海岸で救助を待っていれば、そこに爆弾落とすし、それはそれはひどい。これが実話だってんだから、戦争って怖いよな。ずっと息することでさえ、自由を奪われるのだから。
そして、この映画はいきなりクライマックスに加え、登場人物が一切語られない。これ、逃げ惑う兵士のストーリーとかあったら、入っていけない戦場に、映画開始と同時に投げ出されて、一難去ってまた一難が繰り返されるせいで、もう気付いたら苦しかった。
映画って主人公がだいたいいて、その人を掘り下げながら話が進んでいくかなーって思うけど、それが皆無。ちょっとだけあるんといえばあるんだけど、ない。
俳優陣もほぼほぼ無名な感じで揃えていて、これからきっとブレイクするんだろうなっていう。名前のある人は有名だったりするけど、この顔がよくわからない人たちのおかげで追体験が上手くできた気がする。人気アイドルだったハリー・スタイルズが一際イケメンだった。それだけ。
戦争映画といえば、戦地に行く前の状況、家族とか恋人とかとの話があって、戦地に行って苦悩して、仲間が殺される、自分も生きるために人を殺すみたいな戦いがあって、最終的に戦争は憎い、戦争はやめようみたいメッセージで決着をつけるというか、そういうイメージがある。
「回想?なにそれ必要なくない?」と生きるために殺す戦争ではなく、人を救う戦争、生き抜く様だけを描き切ってるのが『ダンケルク』。
今年公開の戦争映画で『ハクソー・リッジ』も同じように救うことをテーマにしていていたけれど、また違うものを感じる。あれは主人公の深堀りがあっての諸々。そういう意味でラストに味わうカタルシスが別の次元。
■実話でも、これはノーラン作品
今まで、緻密に練られた脚本で構築されてきたフィクションの世界を映像化してきたノーランが実話を撮ったということがまず驚き。フィクションなら先は予想できない風にいくらでも作れるけど、実話ってもうみんな結末知ってるじゃん。どうすんの?って。
『ダンケルク』でもその作風を感じられる構成になっていて安心。
「防波堤での1週間」と「海での1日」と「空の1時間」を同時進行で見せる群像劇に仕上げていて、どうなるか観ていて不安になる展開に再び驚き。これで多少のエンタメ性と緊迫感が生まれて、収束したときの安堵感に繋がる。ちょっと、ここに『インセプション』的な要素を感じた。
空を描いたパートでは『ダークナイト・ライジング』の冒頭や『インターステラー』の宇宙船シーンを彷彿とさせる映像が楽しめた。あの空と海の色はフィルム撮影ならではな気がする。
そんな感じで、過去作品を踏まえた映像かつ超えるものになっている。だから、過去最高傑作と言ってもいい気がする。実話だから、話に文句の付けようもないし。もちろん、表現に関しては色々と言われることもあると思うけど。今は、とりあえず監督作品を見直したい。
そして、お馴染みのハンス・ジマー大先生が手がけた音楽がいやらしい。ひたすらに終わりの見えない閉塞感を時計の音と上がりそうで上がりきらない音階を使い、手詰まり感を強調させる。鬼畜か。
基本が不協和音だから、気持ちはどんどん追いやられていくし、この音楽に呼吸と鼓動が支配されてる感覚になる。途中、確実に息するのを忘れてたし、ドキドキがやばかった。何かで読んだか観たかしたけれど、人の呼吸とか鼓動をコントロールするリズムがあるらしい。ジョーズのテーマとかもそうじゃなかったかな。それに近いものがあるんだろうな、としみじみ。
ここまで長々と気付けば4000字近い文章を書いてしまいました。大学のレポート書いてたときよりも時間掛けたんじゃないかな。ははは。
とにもかくにも、傑作と感じるのは大阪まで苦労して観に行ったプラス点もあるとは思うけれど、ノーランの映画はIMAXでそれもなるべく彼が意図した形で上映されるところにいくべきと思う。
普通のスクリーンだったら、ここまでの体験はできなかったかな。だから、エキスポIMAXに行こう。早く池袋にもできればいいのにね。
映画体験とはまさにダンケルクのこと。
おわり。