新感覚ホラー映画として話題の『イット・フォローズ』観てきました。ノイジーな音楽と美しい映像、そして得体の知れない恐怖。何なんですか、これは、面白いじゃないですか。逃れられない”それ”の正体とは一体何なのか考えたくなります。
※ラストについて考察、若干のネタバレあり。
イット・フォローズ
原題:It Follows
劇場公開日:2016年01月08日
アメリカ/2014年/100分/R15+
監督:デビッド・ロバート・ミッチェル
音楽:リチャード・ブリーランド
出演:マイカ・モンロー/キーア・ギルクリスト/ダニエル・ゾバット ほか
あらすじ・解説
捕まった者に死が訪れる謎の存在=「それ」に付け狙われた女性の恐怖を描いたホラー。低予算ながら斬新なアイデアでクエンティン・タランティーノから称賛され、全米で話題を呼んだ。ある男と一夜を共にした19歳の女子大生ジェイ。しかしその男が豹変し、ジェイは椅子に縛り付けられてしまう。男はジェイに「それ」をうつしたこと、そして「それ」に捕まったら必ず死ぬことを彼女に告げる。「それ」は人にうつすことができるが、うつした相手が死んだら自分に戻ってくるという。ジェイは刻一刻と迫ってくる「それ」から逃げ延びようとするが……。本作が長編2作目となる新鋭デビッド・ロバート・ミッチェルが監督・脚本を手がけ、「ザ・ゲスト」のマイカ・モンローが主演を務めた。
映画.com より
世界が絶賛した”それ”って一体なに!?
タランティーノ監督が絶賛したとか、あの映画批評サイト「Rotten tomatoes」で高評価だったりと、話題のホラー映画です。アメリカで公開された時から気になってました。
2015年3月にロンドン行った時やってたんだけど「海外でホラーはさすがに怖いなー」と思ってやめたのが懐かしいです。
360度回転する映像で始まるゲーム「”それ”を探せ!」はとてもとても楽しい時間でした。
設定が明確なのに、”それ”だけがよくわからない
この映画の面白さのひとつは、映画の中での設定がわかりやすいということかなと思います。
主人公たちが追いかけられることになる”それ”に関してなんですが、
- セックスすると相手にうつるということ
- うつされた人にしか”それ”が見えないということ
- ”それ”は様々な姿に姿を変えて目の前に現れるということ
- ときに愛する人の姿をしているということ
- ”それ”に捕まると死が訪れるということ
そして、うつした相手が死ぬと自分に返ってくる!っていう罠。この終わらない恐怖も嫌ですね。
これを聞いてパッと思いついたのは、単純な「性病」のメタファーってことで、「コンドームをつけようね!」みたいなオチが待ってるんじゃないか、と想像するわけです。
エロエロな内容を少々期待して鑑賞しにいきましたよ。ところがどっこい、オープニングからいきなり得体の知れない”それ”が女の子追い掛け回して、結構グロめにぐちゃぐちゃにしちゃうのを観て、これは「性病」は関係ないのか!?
「性病」って今時得体知られてきてるし、こんな恐怖の象徴として描くべきものでもないよねってなるわけです。
どうして、”それ”が怖いのか
わからないものが怖いっていうのは人間の面白いところでもあるんですけど、「性病」ってまあ、患わないとその恐怖は知れないけど、それでも写真や言葉で充分に恐怖を感じられる存在です。
でも、この映画に出てくる”それ”は追い掛け回してくるし、その目的も、正体もなんだかさっぱりわからない。
のそのそと歩いて近づいてくる人の姿をした”それ”の恐怖。映像的にも面白いです。背後から歩いてくる人は人なのか、”それ”なのか。360度ぐるっとカメラを回す映像が印象的なのですが、この画面の中に映るあの人ってもしかして、みたいなゾワゾワ感がたまんないです。
「ほら、後ろ! 来てるよ!! 早く気付いて!」みたいな。
なんでも、映画の中で引用されている文学作品なんかからも”それ”のヒントが垣間見えるらしいのですが、そういうのに疎い僕にはちんぷんかんぷんでした。すみません「白痴」は読んだことないです。
「白痴の主人公に似てる」って知らねーよ、誰だよ! ってポールがいじられてもわかりません。というか、その貝の形した電子書籍リーダーは最先端なのか。くれ。
ポール頑張れって思っちゃってしまう巧さ
で、そのポールの話します。主人公ジェイのお友達にポールって男の子が出てくるんですよ。キーア・ギルクリストっていう英国男子が演じてるんですけど、失礼ながら冴えない感じでウブな感じがするんです。なんか牛乳の匂いがしそうな男の子なんです。彼の視線の先にいるのは、いっつもジェイなんですよ。
ジェイはどっかで知らない男とエッチして、何か訳のわからない”それ”に追いかけられて大変な目に遭っているんです。普通なら自業自得だ、ビッチってなるところ、ポールにとっては「助けたい!」、「守ってあげたい!」っていう気持ちが溢れ出ちゃうんです。
でも、ウブな彼にはそんな度胸もないし、どうしようって感じになっているのを見ていると「ポール、頑張れ! お前しか助けられないぞ」と勝手に応援したくなってくる不思議。
ラストシーンについて考える
※以下、ネタバレが含まれます。
ポールのことを思うと、ホラー映画のようでいて、ポールの片思い大作戦みたいな印象があります。純情な恋って素敵ですね。好きでいる間は何にでも勝てる気がするから、強くなった気がするからね。ポール、頑張れ。
2人が手をつなぎ歩き、背後に忍び寄る”それ”という意味深なラストシーンからも、愛が重要な話に見えました。意外と青春ラブストーリーって感じのする映画です。
若干、ネタバレになってしまいますが、”それ”ってきっと「死への恐怖」そのものなのかな、と。あと「性に関するコンプレックスとかトラウマの類」が掛け合わさってるのだと思います。嫌なこと色々あったんじゃないかなって。
常日頃から、僕らの背後にそっと忍び寄っている恐いもの、嫌なもの。そう考えると意外と設定がすんなり腑に落ちたところがあって。愛のあるセックスがコンプレックスやトラウマみたいなものから解放させてくれる的な。
あ、そういえばセックスしている間は”それ”って襲ってこないですね。恐怖からの解放はセックスなのか! だとすれば、「生きている」を感じさせてくれるのが異性とのセックスってな感じ……。
主人公が抱える悩みの具現化
正直言って、ホラー映画によくある脅かし系、音ドーンとか、いきなりワッて出てくるとかそういうので怖い映画ではないです。だから、そういう「ザ・ホラー」みたいなのは期待しない方がいいかな、と思います。逆にいうとそういうのが苦手な人でも観れる作品でもあります。
ただ、音楽でめっちゃ煽ってきます。ノイジーなシンセサウンドが全編に渡って鳴り響く不穏な空気。
”それ”ってなんだろうっていうのを考えたくなる作品ですので、ちょっとホラーなのに頭を使うタイプの映画です。
性的なことで誰にも言えずに抱えているもの、ふと考えてしまう「死」への恐怖ってこんな感じで日々追い詰めてくるのかもしれない。観る人それぞれの解釈があるタイプの映画なので、ぜひ”それ”について考えてみてください。
あ、ちゃんとセックスシーンはありますので、安心してください。